好酸球性副鼻腔炎
手 術
副鼻腔と好酸球性副鼻腔炎
副鼻腔は頬部、前額部(おでこ)、両目の間にある骨で囲まれた空洞を指します。副鼻腔は、いくつかの大きな空間(上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞)に分類されます。それぞれの空間は換気排泄路と呼ばれる狭い通路があり、鼻の中(鼻腔)と交通しています。正常な状態では、この換気排泄路を介して副鼻腔内は適度な湿度をもって換気されています。
ところが、炎症などが起こると換気排泄路の周囲の粘膜が腫れてしまい、正常な換気ができなくなります。換気ができなくなると副鼻腔内の粘膜も炎症を起こし、保存的治療でも改善しないと慢性化して慢性副鼻腔炎の状態になります。慢性副鼻腔炎の原因は細菌感染を始めとした粘膜の炎症で、鼻内内視鏡手術を行うことで90%近く症状の改善が得られます。
好酸球性副鼻腔炎は、従来の慢性副鼻腔炎とは異なり、鼻内内視鏡手術を行っても鼻茸(副鼻腔ポリープ)の再発を繰り返し認める難治性の副鼻腔炎です。従来の慢性副鼻腔炎とは発生原因が異なるため、抗生剤の内服は無効で、一時的にはステロイドの内服が著効することあります。しかし、ステロイドは副作用の問題から長期的に内服することが難しいため、重症の好酸球性副鼻腔炎では手術が第一選択と考えられています。難治性・再発性ですので、術後は長期間の治療と管理が必要です。特に、喘息をお持ちの方は喘息と同様に体質として、一生付き合っていく病気として認識されてください。
具体的には以下のような特徴をもっています。
【好酸球性副鼻腔炎の特徴】
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成人発症
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両側性
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CT で上顎洞よりも篩骨洞の陰影が優位
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発症早期から嗅覚障害がある
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鼻茸(ポリープ)を認める
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血中好酸球6%以上もしくは副鼻腔組織中に好酸球100個以上認める
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気管支喘息を合併していることが多い
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粘稠性の鼻水を伴う
好酸球性副鼻腔炎 症例
両側鼻・副鼻腔内をポリープが完全に充満している状態です。


手術の目的
好酸球性副鼻腔炎に対する鼻内内視鏡手術では、鼻内内視鏡下に全ての副鼻腔を大きく開放して鼻腔と副鼻腔の換気を良くします。全ての副鼻腔と鼻腔を大きく交通させることで、これまで骨の中にあったために操作ができなかった副鼻腔内も操作が可能となります。このため、再発した際にも病的な粘膜への操作が可能になり、ステロイド点鼻薬などの外用薬の有効性を高めることもできます。
好酸球性副鼻腔炎ではアレルギーの関与が考えられているため、鼻内のアレルギー反応を軽減する目的に経鼻腔的翼突管神経切断術も併せて行います。
鼻内内視鏡下手術法
全身麻酔下に鼻内内視鏡下手術を行います。モニターを見ながら鼻内より内視鏡下に手術を行います。従来の手術のように歯茎(歯齦部)の切開は不要で、身体への負担や合併症が少なく、回復も早くなります。
副鼻腔手術は片側15~20分程度で終了します。
※病状により、以下の手術内容を追加する場合があります。

鼻内内視鏡手術の合併症
当院の執刀医(南)はこれまで約2000例の鼻内内視鏡手術で重篤な眼症状、頭蓋内合併症、鼻涙管閉塞の発生例はありません。
1.痛み
術後に多少は痛みがあります。鼻内に止血剤(吸収性の綿)を留置していることによる鼻閉のために頭痛を伴うこともあります。痛みは鎮痛剤でコントロールできることがほとんどで、術後1週間程度は鎮痛剤を内服して頂きます。
2.鼻出血・術後出血
術後には吸収性の綿を挿入し止血します。手術翌日までは少量の出血があることがほとんどですが、徐々に改善します。のどに垂れ込んだ血液は飲み込まずに吐き出してください。出血が多い場合はガーゼを鼻の中に入れて止血します。術後2~4日目に吸収性の綿を取り除きますが、出血が続く場合は再度処置を行います。極めてまれですが、再手術による止血が必要となる場合もあります。
3.眼症状(0.2%)
鼻内内視鏡手術で最も頻繁かつ重大になりうる合併症が眼症状です。眼球が存在している部分(眼窩)の内側は紙様板と呼ばれる非常に薄い骨であり、軽微な外傷でも骨折してしまいます。過去の怪我で骨折していたり、生まれつき一部が欠損している方もいます。元々非常に薄い骨であるため、骨折程度であれば特に問題になることはありませんが、さらに眼窩内に損傷が加わると眼球を動かす筋肉や眼球そのものに影響が及ぶ重症合併症の可能性があります。具体的には視力障害、視野障害、複視(物が二重にみえる)、眼球運動障害、眼球偏位が起こる事があります。
紙様板にわずかな損傷が加わったり、損傷がなくても止血剤の圧迫などにより眼窩内に血液がたまり、術後に内出血(パンダ目)になる事(眼窩内血腫)があります。眼窩の内側の下(クマができる部分)の極わずかなものも含めると、眼窩内血腫は2%程度の発症率ですが、通常は1週間程度で消失します。
眼窩内損傷の危険性があるために眼窩付近は操作をしない、という術式もありますが、確実に病変を除去し、理想的な換気排泄路を作成するために当院では基本的に採用していません。
4.頭蓋内合併症(0.1%)
副鼻腔の上は頭蓋骨の底の部分に当たるため、病変が上の方に及んでいる場合などには、極めてまれですが手術操作によって髄液漏(脳が浸っている液)が鼻の中に漏れ出てしまうことがあります。基本的に鼻内の操作で閉鎖可能です。また、副鼻腔炎が重症で脳硬膜の近くまで及んでいる場合、術後に炎症が波及して髄膜炎、膿瘍などを生じ、激しい頭痛、発熱を起こすことがあります。もし、そのような感染を生じたら、神経内科、脳外科と連携を取りながら治療を進めていきます。
5.鼻の違和感・鼻閉感
手術をしたことでしばらくの間、鼻の違和感がありますが、徐々に改善します。創部が落ち着くまでの数週間はカサブタがつくために鼻閉感を伴うこともあります。創部が落ち着いた後も物理的には鼻の通りが良くても、ご自身では鼻閉感を感じられることがまれにあります。
6.嗅覚障害
好酸球性副鼻腔炎で元々嗅覚障害を伴っている場合、術後の嗅覚改善の確率は推測するこができません。
嗅覚を感じる部位(嗅裂部)に鼻茸を認めている場合には嗅裂部の粘膜には操作を加えずに鼻茸を切除します。操作部には術後の瘢痕形成や癒着防止のためにステロイド軟膏をつけたガーゼを留置して術後の嗅覚障害の改善を図ります。
7.Toxic shock Syndrome(10万人に16人程度)
無菌ではない鼻腔内を手術するため、主に黄色ブドウ球菌の産生する毒素の1つ(Toxic Shock Syndrome Toxin-1: TSST-1)によって急激な発熱や多臓器の障害を引き起こす疾患です。適切な抗菌剤の投与、不要な術後鼻内ガーゼ留置を控えることでTSSの発症を大幅に予防することができます。
8.鼻涙管閉塞
涙袋と鼻腔を交通している通路を鼻涙管と呼びます。手術操作や術後変化によりまれに鼻涙管が閉塞することがあり、そのために涙の流れが停滞して眼脂(めやに)や流涙が継続します。改善のため手術的治療を考慮する場合もあります。
術後に涙に血液が混じることがありますが、これは鼻内に止血ガーゼを留置することで血液が鼻涙管を逆流して眼の方に流れているためです。涙に血液が混じっている状態は鼻涙管損傷とは関係なく、鼻涙管が鼻腔と交通して血液が逆流しているだけです。
退院後の見通し
術後、鼻副鼻腔の粘膜の創部が完治するまでの2~3週間は、かさぶたがつきやすくなります。創部が落ち着くまでの間は週1回程度の清掃処置をお勧めします。
好酸球性副鼻腔は残念ながら難治性・再発性であるため、術後は長期間の治療と管理が必要です。一部の抗アレルギー薬とステロイド点鼻薬は継続することをお勧めします。特に、喘息と既にお持ちの方は喘息と同様に体質として、一生付き合っていく病気として認識されてください。